25周年記念大会にイリス・クラマーさんを呼ぶというアイデアは、2年前から持っていた。当時まだイリスが18歳だったが、ものすごくうまいとは聞いていた。そして今年、イリスは20歳になり、岩手にやってきた。
大会の前日、アッピのペンションで初めてイリスを見たときの印象は、なんとなくパパやママに甘える感じで、へそだしTシャツの、どこにでもいそうな観光客という感じだった。ところが、ガスガスにまたがってライディングを始めると、表情はきりりと引き締まり、すらりと背の高い体は無駄な動きをまったく見せず、大きなアクションでも頭の位置がいつも安定している。これは本当にバランス感覚のいいライダーの証拠だ。たまに失敗すると自分が許せないというように顔をしかめ、もう一度やって成功するとこれでよしという顔つきになり、相当な負けず嫌いが表情でよくわかる。着替える前にショートパンツでいたとき、膝に大袈裟なサポーターを締めているので、「痛むのか?」と聞くと「もう大丈夫」と答えたが、靭帯を傷めているらしい。が、そんなことはいっさい言い訳のタネにしないところにもドイツ娘のド根性が出ている。
大会当日はママを乗せて車で走ったので、限られたセクションでしかイリスの走りを見ることはできなかったが、ともかくその走りは素晴らしいの一語につきる。まず、ラインの読みが慎重だ。いうまでもなくトライアルは下見が重要だ。イリスはバランスまかせでクリーンしているわけではなく、いつもベストなラインをたどる心がけがあってのクリーンであることを見習ってほしい。いいかげんな下見で失敗を繰り返しているライダーには、ほんとに爪のアカを煎じて飲ませたいくらいだ。
そして、必要なぶんだけパワーを使う正確なアクセルコントロール。不必要に開けすぎることは決してなく、それでいて普代浜ヒルクライムのようにパワーとスピードが必要なところは迷わず4速全開で飛ぶようにクリーンする。観客の多い安家元村の人工セクションも大きな丸太の山を苦も無くクリーン。長丁場の疲れがでてくるさんだいなべのロックセクションも、多くのライダーが5点を取っていたのにベストラインを読んで見事にクリーン。イリスの集中力の高さが光っている場面だった。大観衆の見守る北緯40度公園ヒルクライムも軽々とクリーンして喝采を浴び、このセクションは楽しいと笑顔を見せた。
また、コース上で止まる機会があると、すぐさまチェーンの張りを見て、グリスをスプレーし、マシン全体のコンディションをチェックする。
そして、コース移動もメリハリの効いた走りで、つねに対向車がくる可能性がある舗装路や林道ではむやみに飛ばすことなく、完全な山道にはいると風のように速く、ついていくのが大変だったと案内役の米沢君が感心していた。
そして、特別ゲストで賞典外とはいえ、総合順位では昨年の優勝者、柏栁君にわずか1点差で3位となっていたのは見事としかいいようがない。なお、総合1位相当はなんと46歳のパパだった!まさにドイツのトライアル父娘に脱帽である。パパは、20年ほど前にマイコ(今は無きドイツ車)やホンダの500ccモトクロスライダーだったというから、元プロライダーだ。ちなみにパパの仕事は自動車整備、イリスはその工場のカウンターで仕事をしているというからいまは二人ともアマチュアなのである。
というわけで、「遊ぶときぐらい真剣にやれ!」といつも言っている成田副会長も感心しっぱなしの、まさにトライアル精神の手本をイリスは僕らに示してくれた。ダンケシェーン(ありがとう)イリス、これでイーハトーブトライアルにも、立派なトライアル精神の持ち主が増えると思うよ。